2008年9月18日木曜日

人工ブラックホールは地球を飲み込むか?

 これじゃ、まるで大衆週刊誌の出来の悪い見出しだ。

 欧州原子核研究機構 CERN で完成し実験が開始された、大型ハドロン衝突型加速器 LHC にまつわる話だが、実験での発生する極小ブラックホールが地球を飲み込んでしまうのではないかと、実験中止を訴える人たちが少なからずいたようだ。

 「何を世迷言を…」

 などと、ナウシカのクロトワのようなセリフを内心吐きながら、無知は罪であると常々感じている自分自身は、今回の実験に関してどれだけの知識を持っているのだろうか、と、はっとした。さっそくググって調べてみる。

 粒子加速器を使った素粒子実験の歴史は、そんなに浅いものではない。なぜ LHC が耳目を集めているかというと、その性能がこれまでとはケタ違いだからのようだ。

 例によって素人の付け焼刃的解説だが、お付き合いいただきたい。

 手元にある1990年刊行の解説本によると、当時の米フェルミ国立加速器研究所の粒子加速器の性能は、陽子に1兆8000億電子ボルトのエネルギーを与えることができるとある。つまり、1.8 TeV(テラ・エレクトロン・ボルト)となる。
 今回稼動開始した LHC のそれは、7.0 TeV ということなので、ケタこそ同じだが段違いだ。これほどの高エネルギーをもった粒子同士が衝突すると、宇宙の始まりがそうであったと言われる「ビッグバン」に近い状態を再現できるということだ。

 20世紀最大の発見といわれる一般相対性理論だが、実はこの世の中の全てを記述できる理論ではないらしい。特に物質の極小レベル、つまり素粒子レベルを記述しようとすると、うまくいかなくなってしまう。アインシュタイン自身も素粒子論にはあまり良い印象をもっておらず、「神はサイコロを振らない」という名言(迷言?)を残している。

 その素粒子論も、この世の全てを記述できているわけではない。理論上は存在が予言されていても、発見に至っていない素粒子も多いという。ヒッグス粒子もそのひとつで、「なぜ物質が集まると重力が発生するのか?」の鍵を握る素粒子だそうだが、LHC の実験で発見が期待されている。

 その宇宙の起源を探る実験だが、どこからどう沸いて出たのか知らないが「実験で強力なブラックホールが出来て地球を飲み込んでしまう」というアホな噂話が飛び交ったそうだ。

 仮に(本当に仮にだ)、実験でブラックホールができたとしよう。陽子同士の衝突で発生するブラックホールの質量は、衝突した陽子の質量の合算以上には絶対にならない。となれば、その質量は「取るに足らないレベル」だ。仮に、それが「事象の地平面」を形成するまでに凝縮されブラックホールとしての体を成したとして、その半径は計測もままならない程度のものになるだろう。

 「いや、それでもブラックホールであることには間違いない」

 世迷言集団は、そう反論するかもしれない。理屈には理屈で対抗しよう。

 スティーヴン・ホーキングが発表した「ブラックホールの蒸発理論」によれば、ブラックホールは巨視的には徐々に質量を減らしていく。そして、あるポイントを過ぎると加速度的にエネルギーを撒き散らし蒸発してしまう。
 つまり、どのブラックホールも緩慢な消滅の道を歩んでいく。そして、その消滅の速度は自身の質量に反比例して速くなる。たとえ計測もままならないブラックホールが生成されたとしても、光が1ミリも進めないぐらいの間(あくまでも例えだが…)に消滅してしまうだろう。地球を飲み込む暇なんてありえない。

 すべての人間が素粒子論を熟知している必要は無い。しかし、理系のセンスというもは持って欲しい。噂話が「ウソ臭い」のか「現実味があるのか」ぐらいはかぎ分けられるセンスだ。

 例えば、
 「蛇口に挟むだけでトリハロメタンが除去できる浄水器」(ただの強力磁石じゃん)
 「健康に良い純度99.9%のゲルマニウムをちりばめた腕輪」(ただの金属じゃん)
 「遠赤外線を出して体によいトルマリン入りの…」(永久機関か?)
とか、の事。

 こんなのにひっかかるヤツが悪い。そう、ごもっとも。もっと勉強しようよ。なんか変だなと思ったらネットで調べればいいじゃん。きっと、賛否両論の記事がたくさん見つかるだろう。
 だが、擁護してるページは、だいたいが業者関係者によるものと言っていい。なぜなら内容が一字一句違ってないからだ。両論、くまなくページを巡回すれば、おのずと何が正しいのか判断できるだろう。ウェブの無かった時代では無理だったろうが、今ならそれが出来る。知の集積所としてのネットを活用すべきだ。

 ブラックホールから、トンデモ商品まで、幅広い話題だね。

ちなみに、CERN は WWW 発祥の地とされている。昔は CERN httpd とかあったよね。今もあるかな?

【追記】
 「加速された陽子同士の衝突でブラックホールが生成されたとしたら」の思考実験だが、厳密に言うと加速された陽子の質量は静止状態のものより重くなっている。加速器によって加速された陽子は、光速に近づくにつれて遅くなる。つまり、与えたエネルギーの全てが移動エネルギーに変換されなくなる。これは、一般相対性理論の基本原則である「物質は光速を超えて移動できない」という縛りにあうからだ。では、与えられたエネルギーはどこに消えたかというと、陽子の質量に変換されている。つまり、陽子は重くなっている。これが、どれだけの重さになっているのかは計算式から導けるとは思うが、ここでは詳しくは触れない。どのみち、増加した質量はとるに足らないレベルだろう。

【追記2】
タイトルのタイポを修正。

【追記3】
「光速度不変の原理」は、特殊相対性理論の基本原則でした。付け焼刃ばればれ。

2008年9月7日日曜日

[ MIAU ] "インターネットリテラシ読本" を公開

 制作と配布が予告されていた、「MIAU版インターネット教科書」が公開にこぎつけたようだ。

インターネットリテラシ読本「”ネット”と上手く付き合うために」公開

 全23ページに及ぶものでPDF形式よる配布となっている。
冒頭で「青少年ネット規制法」成立の経緯に言及しており、

インターネットの仕組みを理解していない議員間で立案されたため、成立までには、インターネット事業者や携帯電話業界から大変な反発がありました

とある。

 議員が特定の業界に詳しくないのは、ある意味しょうがない部分もあるだろうが、特にインターネットという技術革新スピードの速い業界では、概要さえ把握してるかどうかも怪しい。

 それに、歴史が古く政治的に大きな影響力のある業界であれば、有形無形の圧力をかけて簡単にツブしてしまうような法案でも、そのような「魔法の杖」を持ち合わせていない業界では止めようが無い。

 もちろん、法案の趣旨には同意できる。が、やり方が間違いだらけだ。業界のあちこちからたくさんの指摘を受けていたが、結局ゴリ押しで通した。

 そのツケは国民に回ってくる。気がつけば、インターネットが居心地の悪い場所になり、そこで発展するはずだった産業は廃れ、インターネットリテラシ教育を十分に受けていない若い世代が、18歳になった瞬間に様々なトラブルに巻き込まれ大混乱に陥る。

 今はまだおぼろげだが、確実に実像を結びつつある「バカ過ぎるインターネット未来像」がそこにある。インターネットとはどういうものなのか(どういうものだったのか)が理解できていない者が、不具合だらけの法律でブチ壊しているのだ。

 話がそれた。

約束どおり、「MIAU版インターネット教科書」を公開してくれた、MIAU の中の人たちに御礼を言いたい。

 ありがとう。そして、おつかれさまでした。